Sideswipe

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間脳・中脳と大脳基底核

これは 人工知能アドベントカレンダー の5日目の記事です。

脳は大脳、中脳、小脳からなっており、大脳はさらに終脳(大脳半球とも言う。脳の大部分を占める、しわで覆われた組織)と間脳から構成されます。

中脳

中脳(midbrain)は、間脳と橋(pons)の間にあり、被蓋、上久、下丘、赤核などから構成されています。ここは間脳より低次の反応を受け持っていて、いくつかの反射(急に眩しい光が当てられたときに目を瞑る、環境の明暗に応じて瞳孔を収縮させる、立っている状態で急に身体を押された時にバランスを取って倒れないようにするなど)や、歩行パターンのリズムを生み出したりする部分です。中脳については、本Advent Calendarではこれ以上は触れません*1

間脳

間脳(diencephalon) は、下位の中枢からの入力を終脳に転送する中継地になっています。

たとえば、視覚刺激は網膜から直接視覚野(17野)に届くわけではなく、間脳にある視床(thalamus)*2を経由してから視覚野に入力されます。これは他の感覚でも同じで、嗅覚を除くすべての感覚入力はいったん視床に入ってきます。

大脳基底核

大脳基底核(basal ganglia)は非常に重要な部位で、今後も度々登場するためにある程度詳細に説明します。
昔は大脳基底核の機能は運動の細かい制御だけだと考えられていたのですが、現在は運動調整はもちろん、感情、動機付け、学習などに重要な役割を果たしています。

その名前からも明らかなように、大脳基底核は大脳の一部であるので、本来は前回触れておくべきだったのですが、間脳との極めて密接な関わりから、今回一緒に紹介します。

構造

間脳や大脳基底核の構造は非常に複雑で、多数の神経核が複雑に接続されています。そこで脳の深部から順番に見ていきましょう。

脳梁・中脳

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大脳は2つに分かれており、右脳と左脳から構成されていることはみなさんご存知だと思います。ここでは、脳を半分に切って、右半分だけを表示しています。
脳の中央は、脳梁・中脳・橋・延髄などからなっています*3。脳梁(corpus callosum, CC)は右脳と左脳を相互に接続する約3億もの神経線維の束で、砕けた言い方をすれば右脳と左脳が情報をやり取りするためのケーブルです。そのため脳梁そのものがなにかの情報処理をしているわけではありませんが、ここではわかりやすさのために表示しています。

橋(きょう, pons) は、顔面神経や三叉神経などの神経核や、大脳からの出力を受け取って、小脳へ転送する役割を果たしています(この、「大脳の出力を小脳に転送する」という機能は実は極めて重要ですが、これは後日解説します)。

脳下垂体(のうかすいたい, pituitary gland, 単に下垂体とも言う)は、ホルモン分泌のための器官ですが、今回の汎用人工知能という話題との関わりは薄いので以降は詳しく触れません。

なぜまずこれらの器官をピックアップして紹介したのかというと、これらがちょうど脳の真ん中に位置しているからです。次から紹介する他の器官、たとえば視床や海馬や線条体は、すべて左右2つずつ存在します*4。脳は大脳皮質だけではなく、これらの器官も左右に別れて存在しているのです。

ですから、以降に紹介するものは、次第に外側、言い換えると左耳に近づくようにして配置されていきます。中脳や橋はこれらの器官に挟まれて存在しているともいえます。

間脳(視床)

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間脳は

で構成され、さらに視床下部

  • 松果体(pineal body)
  • 下垂体(pituitary gland)
  • 乳頭体(mammillary bodies)

から成っています*5

視床は始めにも説明しましたが、嗅覚を除くあらゆる感覚の中継地点です。さらにここでは上丘と下丘も示していますが、これらは本来中脳に属する器官で、視覚・聴覚情報を中継して小脳につながっています。

海馬体

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さらに視床を囲むようにして、乳頭体・脳弓・海馬体があります。

線条体大脳基底核

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大脳基底核は、おおきくわけると線条体扁桃体の2つから成り立っています*6
大脳基底核レンズ核という丸くなっている部分から、尾状核という尻尾のような部分が生えています。
さらにレンズ核被殻淡蒼球に分かれています*7
尾状核レンズ核視床をぐるっと囲むように弧を描いて、扁桃体と接続しています。

扁桃体は、同時に海馬の先端にも接続されているため、大脳基底核に含める場合と、大脳辺縁系に含める場合の両方があります。

側坐核

側坐核大脳基底核に含める場合と、大脳辺縁系に含める場合がありますが、ここは快感や中毒性などを処理しています。

Oldsらは、ラットがレバーを押すと側坐核を刺激する実験をしたところ、食事もとらずにひたすらレバーを押すという行動を発見しました*8
このことから、側坐核は「快楽中枢」とも呼ばれており、ここからなにかを欲するという動機付けが行われていると考えられています。

ただし、この実験では何かがほしいと思うこと(欲求)と、快感を得られること(快情動)が区別されていません。本来は、快情動が得られるからそれを欲するようになるわけで、両者は区別して考える必要があります。

つまり、なにか行動をする→快感が得られる→快感が得られるような行動が強化される→欲求が生まれる という順番があるはずです。このあたりのモデルに関しては、後日の大脳基底核の項目で詳しく述べることにして、ここでは「側坐核は快楽中枢である」ということに留めておきます。

扁桃体

扁桃体(amygdala, 扁桃核ともいう)は、大脳辺縁系に加える場合と大脳基底核に加える場合があるということはすでに述べましたが、ここは感情と記憶に関係していると考えられています。経験的にも、強い感情が伴うできごとはそれがたった1度であっても長い間記憶に残るということがおわかりになるかと思います。特に扁桃体は恐怖に関する活動が顕著で、アカゲザルを対象とした実験では、扁桃体が損傷すると恐怖を感じなくなることがわかっています(たとえば本能的に怖がるはずのヘビをつかんで口の中に入れるなど)*9*10

帯状回

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帯状回(cingulum) は、脳梁付近に存在する脳回で、大脳辺縁系と大脳新皮質を接続する役割を果たしています。

大脳基底核の機能

既に述べたように、大脳基底核は昔は運動の制御に関わっていると考えられていましたが、今では動機付けや学習に非常に深く関わっていることがわかっています。
詳しくは、後日の「大脳基底核のモデル」で触れることにしますが、簡単にいえば大脳基底核は「自分にとって得がありそうなことをし、損しそうなことは避ける」という生きる上で非常に重要な役割をしていると考えられています。そのために、大脳基底核大脳基底核の各部位同士はもちろん、高度な推測に必要な大脳新皮質と、身体感覚の入出力の中継地である視床と密接に接続されています。

大脳基底核の回路

身体情報はまず視床に入ってきますが、そのあとは、視床大脳新皮質大脳基底核と信号が伝達され、最後にまた視床に戻ってくるというループを形成しています*11

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脳の冠状断面

上記が視床大脳新皮質大脳基底核、大脳辺縁系における主要な回路です*12
これは冠状断面(coronal section)といって、脳を前と後に分割するように切断したときの断面を表示しています。言い換えると、両肩を通るような切断面で脳を切ったときの断面です。図の右側が左手側、図の左側が右手側、図の奥方向が後ろ(背側)で、手前が前(腹側)です。

代表的な経路として、直接路があります。これは、視床→大脳皮質→線条体淡蒼球内節/黒質網様部→視床の経路です。

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直接路

ハイパー直接路というものもあります。こちらは線条体を経由せずに大脳皮質から視床下核淡蒼球内節/黒質網様部→視床という経路をとっています。
また、線条体から淡蒼球外節に繋がっている経路は間接路と呼びます。

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ハイパー直接路

直接路は興奮性、間接路は抑制性の経路であり、この2つがうまくバランスをとることによってなめらかな随意運動(自分で動かそうと思って行う運動)を実現していると考えられており、このバランスが崩れた状態が、パーキンソン病ハンチントン病です。

このように、一度視床に入ってきた情報は、その一部は脳幹からまた外に出て行く(つまり、体を動かすための信号)ものの、ほとんどは大脳皮質と大脳基底核を経由してまた戻ってくることがわかります。より局所的に見ると、それぞれのループは役割が異なるようで、体を動かすための運動ループ(motor loop)や、前頭前野ループ(prefrontal loop)、辺縁ループ(limbic loop)などがあり、それぞれ視床の違うところがから出発し、違うところに戻ってきているということがわかっています*13。単にループしているだけでなく、いくつかの処理が並行して走っているようです。

コンピュータのトランジスタと異なり、神経細胞の反応は非常に遅いので、こういった並行処理は脳のいたるところで見受けられます。

これらの回路がどういった役割を果たしているのか、どのような仕組みなのかについては、また後日触れることにします。

*1:中脳の解説をするには余白が少なすぎるし、原始的な機能を担当している性質上、人工合成知能を作るという点では関わりが少ないため

*2:正確には、視床にある外側膝状体(lateral geniculate nucleus, LGN)に投射される

*3:小脳も見えるが、ここでは触れない

*4:中脳内部にある、たとえば赤核黒質などもやはり左右2対になっている

*5:視床視床下部のみをもって間脳を指すこともある

*6:ただし、扁桃体大脳基底核ではなく大脳辺縁系に含めることもある

*7:図ではわかりにくいが、被殻レンズ核の外側、淡蒼球レンズ核の内側の領域を指す

*8:Olds J, Milner P (1954). "Positive reinforcement produced by electrical stimulation of septal area and other regions of rat brain". J Comp Physiol Psychol 47 (6): 419–27.

*9:さらに、食べられる物とそうでない物の区別がつかなくなる、なんでも口へ運ぼうとする、他の種や無機物に対しても性の対象にするといった行動も見られ、これはクリューバー・ビューシー症候群(Klüver-Bucy syndrome)と呼ばれる。クリューバーとビューシーの論文では「精神的失明(psychic blindness)」と書かれている

*10:Klüver H, Bucy PC. Psychic blindness and other symptoms following bilateral temporal lobectomy in Rhesus monkeys. Am J Physiol 1937;119:352‑3.

*11:Alexander GE, Crutcher MD. Functional architecture of basal ganglia circuits: neural substrates of parallel processing. Trends Neurosci 1990; 13: 266-271.

*12:本当はもっと複雑だが、思い切って簡略化して表示していることに注意

*13:Alexander GE, et al. Parallel organization of functionally segregated circuits linking basal ganglia and cortex. Annu Rev Neurosci 1986, 9: 357-381.

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