コンピューターで「脳」がつくれるか? FAQ編
既にご存知の方も多いと思いますが、 コンピューターで「脳」がつくれるか という本を 9月27日に出版します(噂によると都内の大型書店なら15日か16日に先行販売する書店もあるらしい?です、謎)。
- 作者: 五木田和也
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2016/09/27
- メディア: 単行本
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で、今回は
「これは絶対質問来るだろうな〜今のうちに対策しておこう!」
という話題です。
Q. 汎用AIってなんですか?
雑にいうと、「SF映画にでてくる、人間みたいな人工知能」です。
つまり、今あるような囲碁とか将棋とか車の自動運転とか、ある特定の問題だけをうまくやるAI……ではなく、
動物のようにあらゆる問題に対してそこそこ対応できるAIのことを指します。
SFでいうと、チャッピー、HAL9000、ターミネーター、WALL-E、ドラえもんあたりかな。
汎用AIの定義は結構難しくて、人間も自分ではなんでもできると思ってるだけでその汎用性については疑問が残りますが、とりあえずそういう感じだと思ってください。
もう少し詳しい話は Wikipedia の「強いAIと弱いAI」がカジュアルに読めると思います。
Q. 私は文系ですが読めますか?
数式は一つも出てこないので、数学アレルギーの方でも安心です。
英語もなるべく排除し、日本語でいいかえるか、どうしても不自然になってしまうものはカタカナ表記にしました。
Q. 人工知能や情報工学のこと全然知りませんが大丈夫ですか?
そのような方でも気軽に読めるように最大限配慮し、注意深く書きました。
多分中学生くらいでも読めるはずです。
もちろん、簡単な紹介だけで終わらないように、なるべく深く説明しようとは努力しました。
「わかりやすいこと」に主眼をおいたので、多少正確性を犠牲にして、喩え話やイラストをふんだんに盛り込みました。
特に重要な部分については、参考文献も併記しました。
Q. その本を読んだら私はなにがわかりますか?
- 今のAIってどういう仕組みなの?
- 人間の脳ってどんな仕組みなの?
- 機械学習ってなに?
- ディープラーニングってなにがすごかったの?
- 映画に出てくるような、人間のように考えたり喋ったりするAIがまだ開発できないのはなぜ?
- そういうAIはどうやったら作れるの?
- 人間のようなAIができたら世界はどうなるの?
- そもそも「知能」ってなに?
といったことがわかります!わくわくしますね!
Q. 特化型AIと汎用AIってなにが違うんですか?
本を読みましょう!
Q. 特化型AIと汎用AIをわけることにこだわりがあるみたいですが、どちらも本質的には同じではないのですか?
難しい話ですが、両者はどこかではっきりと分けられるようなものではなくて、連続しているとおもいます。0か1かではなくて、境界が曖昧で混ざり合っている部分もあるでしょう。
とはいえ現状は特化型AIと汎用AIの差があまりにも大きいうえに、目指している方向性も違うので、「とりあえず両者は分けて考えましょう」ということになっています。
もともと「人工知能作ってみたい!」という欲求が人類にはあったので、いろいろな研究(記号による推論とか)があり、そこそこ成果を収めました。
ところがやがて「簡単かと思ったけどこれはなかなか難しいぞ」ということに気づきはじめます。フレーム問題やシンボルグラウンディング問題などの難題も見つかってしまいました。
そこで「人間のように考える機械(強いAI)」はいったん諦めて、それまでの知見を活かし、各分野に対して個別に解決するプログラム(弱いAI)に注力していくようになりました。
たとえばチェスをするとか、顔認識をするとか、車の自動運転をするとか、音声認識とかがそうです。
ジャンルをどれか1つに絞れば人間に迫る性能を出せますし、それはそれで非常に有用なのですが、「人間みたいな奴が作りたい」っていう目的からはだいぶそれてしまったというわけです。
Q. 「人間のような」と言っていますが、動物にだって知能があるのでは?
これはその通りで、汎用AIの当面の目的は鳥類とか齧歯類くらいの知能を目指すことになるはずです。
ただ、「ネズミの脳を作ろうとしています」といってもピンとこないので、わかりやすさのために「人間のようなロボットを作るのが目的です」のような説明をしています。
もっといえば、身体も必須ではないはずなので、「ロボット」に限定する必要はありません。
ただし、動物のような知能を開発する以上は、自分の意志で動かせる身体が事実上必要だろうと考えられています(身体性といいます)。
Q. Wikipediaを見たら汎用AIは見通しがいまいちだから脳をシミュレートしたほうがまだマシだと思いました
脳をシミュレートすれば脳と同じことができるはずというのは自然な発想ですが、測定技術とシミュレートの技術とコンピュータの性能の点でそれはそれで厳しいのではないかと思っています。
また、脳をコピーしてシミュレートできたとしても、結局知能についてはよくわからないままという問題もあります*1。
飛行機を開発するときも、鳥のコピーを作るのではなくて、飛ぶためのエッセンスをある程度解き明かしてから実験を繰り返すことで、
「鳥のような羽毛はないし羽ばたかないしくちばしもないけど、飛ぶことはできる」ものができたわけです。
飛行機で言うところの航空力学的な部分を抑えつつ、同時に鳥やムササビの飛翔技術を学ぶように脳に学び、知能の構成要素を明らかにしながらパーツを組み合わせるほうが効率が良いし、実用的にも優れていると考えています*2。
そしてなにより、Wikipediaには書いてないかもしれませんが、汎用AIのための技術はちょっとずつではありますが、確実に知見が溜まってきています。
ちなみに、脳をまるごとコピーしてシミュレーションすることは全脳シミュレーションといい、
知能を構成するメカニズムを解明してからそれを機械で再現する方向性は全脳アーキテクチャと呼ばれることもあります。
Q. 内容の正確性はどうですか? あなたの思い込みや妄想が多いと困ります。
今回はかなり扱っている範囲が非常に広いので、
にチェックしてもらいました。極端におかしい部分はないはずですが、「わかりやすさを優先したいのはわかるがさすがに思い切りが良すぎるのでは?」と言われたところは結構あります。
逆に言うと、専門家がドン引きする程度にはわかりやすさを優先しました。
Q. 汎用AIは夢物語だから特化型AIに注力するべきだと偉い人が言っていました
汎用AIができるかできないかという点は、専門家でも意見が分かれています*3。
ただ、「できない」ことが証明されたわけではないので、誰が否定しようが汎用AIを作る試みは続きます。
短期的には従来の特化型AIのほうが役に立つのも間違いないでしょう。たとえばネズミと同じ知能を持つAIができたとして、それがなんの役に立つのでしょうか?
ただしそれが改良されていって人間に近づいてくる(または追い越す)と、今度は革命的に世界が変わっていくと思います。
ライト兄弟の飛行機は最初100mほどしか飛べませんでしたが、そこで「飛行機なんてなんの役にも立たない。これからも自動車や馬車だ」と思う人間は先見の明がないといえるでしょう。
クラークの三法則
- 高名だが年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。
- 可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである。
- 充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
そもそも、人間みたいなAI、作ってみたくないですか?作ってみたいですよね?
個人的には「作れそうだからやってみる」というのが一番の動機であって、役に立つかどうかは別の人間が考えればよいのです。