Sideswipe

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小脳

これは 人工知能アドベントカレンダー の6日目の記事です。

小脳は他の部位と違って、比較的わかっていることが多い部分です。今回はこの小脳について解説します。
小脳は霊長類はもちろん、魚類から哺乳類にいたるまで、種を超えて脊椎動物すべてに共通した構造をもっていることから、無くてはならない重要な器官であるとされます。

概略

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主な機能

小脳(cerebellum)の主要な機能は

  • なめらかな随意運動
  • 身体の平衡を保つ
  • 歩行

であり、1950年代にはすでに「小脳はなめらかな随意運動に必須」ということがわかっていました。たとえば、目の前にあるペンを取ろうとするとき、手をなめらかに移動してペンに到達させることができますが、小脳が障害されているとき*1はこの滑らかさが失われ、手の動きが早すぎたり遅すぎたりする状態を交互に繰り返すような動きになってしまいます*2

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小脳疾患患者の手の動き。上に書いてある線をトレースしようとしたのが下の図。滑らかさが失われ、ぎこちない動きになっていることがわかる*3

その後、非陳述記憶にも深く関わっていることがわかっており、運動だけでなく脳の様々な機能を担当しています。

構造

小脳も大脳同様、左右の半球に分かれています(小脳半球)。また、半球の間には小脳虫部(vermis)があります。
小脳虫部は身体の中心部、体幹を受け持っており、小脳半球は四肢の運動を受け持っています。そのため、小脳虫部が障害されると全身のバランスが崩れ、歩いたり立っていたりするのが難しくなります。右半球が障害されると右手や右足、左半球が障害されると左手や左足の動きに影響が出ることから、小脳内部では身体のどこを受け持つのかという担当がはっきりわかれていることがわかります。

そしてやはり大脳同様、小脳も小脳皮質という3つの層に覆われています。

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マウスの小脳。蛍光タンパク質によってプルキンエ細胞が発光している。横に並んでいる丸い細胞がプルキンエ細胞で、上に向かって根のように樹状突起が伸びている。画像中央で横方向に大量に走っている繊維がある場所は白質。*4

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小脳の概略図。細かい部分は省略してある。上3つの青字で示した、分子層、プルキンエ細胞層、顆粒細胞層が小脳皮質。

前述のようにこの構造はすべての脊椎動物に共通していることから、非常に重要かつかなり洗練されたものになっていると考えられます。
綺麗な3層構造をしていること、それぞれの細胞がどのように接続しているのかがわかっていること、様々な動物で共通の構造をしていること、などの理由から、小脳は大脳新皮質大脳基底核と比べると早い段階からその機能がわかっており、モデル化も進んでいる部分です。小脳のモデル化やシミュレーションについては、後日「小脳のモデル」で触れることにします。

*1:先天性のものもまれにあるが、脳卒中や脳腫瘍、外傷、アルコール中毒などが原因

*2:Flash, T., Hogan, N. 1985. The coordination of arm movements: an experimentally confirmed mathematical model. J. Neurosci., 5, 1688-1703.

*3:Figure 67of the book "Cerebellar functions" by André Thomas (Public Domain)

*4:The Gene Expression Nervous System Atlas (GENSAT) Project, NINDS Contract # N01NS02331 to The Rockefeller University (New York, NY). (Public Domain)