人工知能についてアンケートしたら意外な結果だった
「人工知能」について、みんなどう思ってるんだろう?と気になったので、Twitterでアンケートしました。
アンケート結果
というわけでアンケート結果です。
知能ってなんなの?という質問
まず1つめ。そもそも機械に知能って宿るの?という確認。
【アンケート】みなさんはなにをもって「知能がある」と思いますか?将来機械に知能が宿るとしたら、それはどのような形だと思いますか?
— かずー (@kazoo04) August 29, 2016
その他の考えもたくさんあると思うので、該当しない場合はリプライください。
これは知能の定義で回答が変わってくるので、そこを曖昧にしたままアンケートをするのは反則っぽいのですが、こんな感じになりました。すごく意外だったのは、「将来、今のAI技術の延長で知能が宿る」が1位ではなかったことです。
つまり、SiriとかPepperとかWatsonは、「知能っぽいモノ」であって、動物の知能とは方向性は違うだろうと思っている人が結構多いようです。その理由はいろいろあって、
- 感情がないから
- 本能的な欲求を持たないから
- 自分自身でプログラムを書き換えることはないから
- 動物の脳に比べると単純過ぎる
- プログラムに従って決定的に動くから
などが多いようでした。ここではそれぞれの意見に対してコメントはしませんが、私はもっとも得票数の多かった 将来、今とは根本的に異なる技術で知能が宿る 派だったので、まさか一致するとは思わなかったなあというのが意外な点です。
1割位の人が「そもそも人工知能なんてできないよ」って思ってるのはだいたい予想通りでした。まあ、魂とかの話になってくるとこのへんは機械だと無理そうだなあという感じがしますし。
どうやって作るの?という点
人工知能できるよ派の人は、どのような技術で達成されると思ってるのかも気になるので聞いてみました。
【アンケート】それでは機械に知能が宿るとしたら、それはどのような技術によってなされると思いますか?いくつかある場合はもっとも実現の早そうなものを選んでください。
— かずー (@kazoo04) August 29, 2016
その他の場合はリプライください。
これすごく面白い結果だなあと思っていて、「既存の技術の延長でできるよ」派と、「未来の(未知の)技術によってできるよ」派と、「ていうか脳をまるごとシミュレートすればいいじゃん」派で3つにわけると、ちょうど1/3ずつなんですね。
1つ目のアンケートで既存のAI(PepperやSiri)にも知能はあると答えた人が13%で、今回既存のAI技術(ディープラーニング含む)の改良のみで可能と答えた人が19%なので、まあ大体同じ人が投票したんだと思います。差分の6ポイントは、「今のAIには知能ないけど、このままPepperとかSiriをIT技術者が改良しつづければいつかは知能っぽくなるでしょ」と思ってる人たちだと思います。
脳をシミュレートすれば知能生まれるだろうっていうのは唯物論や機械論に従うのであればまあ当然かなと思うので、これは妥当な線かと思います。
「未来の技術で」派の人たちは量子コンピュータ派かな?でも脳で量子力学が積極的に利用されている説(量子脳理論)は証拠が見つかっていないのであんまり支持されてないです。
どっちが先?
今回のアンケートで悩ましいのは、「脳をシミュレート」するのが先か、「脳の理論を解明してそれと同じように動く機械を作る」のが先かという点かなと思います。空を飛ぶときに、まったく鳥と同じものを作る(オーニソプター)か、航空力学などを使って鳥とは違うけど空をとべる機械を作る(要するに飛行機)かといったのと似た問題です。この場合は様々な先駆者が「羽ばたく機械」で頑張ろうとしてる間に、ライト兄弟が固定翼機を作って飛翔に成功しましたが、脳の場合はどうでしょうかね?
お前はどう思うんだという点
じゃあ筆者はどう考えているのかというと、
- 将来、今とは根本的に異なる技術で知能が宿る
- 既存の計算機の改良+新アルゴリズム
という立場です。前者は最多得票でしたが、後者は逆に最小得票数でした。「既存の計算機の改良+新アルゴリズム」派はもっと多いかなと思ってたんですが……。
将来、今とは根本的に異なる技術で知能が宿る
まずこちらですが、雑に理由を並べると
- そもそも今のAIは何かの問題に特化させて、自動化するのが目的である
- だから、「人間の知能の再現」を最初から目指してない
- 「人間のような知能」を作りたいなら、最初からそれを目指してやるべきだ
といったあたりになります。文字認識とか、自動翻訳とか、PepperとかSiriとかWatsonみたいなものは、ある特定の問題を人間の代わりにやってくれる機械です。特定の問題に特化しているので最近は区別するため、 **特化型AI** と呼んだりします。まあ今ブームのAIは全部これですね。
たしかに古く(1950年代とか)から「人間のような知能」の研究はあって、特に「推論」あたりの話だと、そこからフレーム問題とかシンボルグラウンディング問題のような難題が提起されたり、ホップフィールドネットワークで連想記憶が実現できるとか、チューリングテストの考案とかいろいろあった(というかそのような研究が積み重なってきたからこそ、人間っぽいAIと、特化型AIという違いが認識されてきたともいえる)のですが、結局今は下火です。今はそこから派生していったアルゴリズムを特定の問題(文字認識とか自動翻訳とか車の自動運転とかね)に使うことが主流なのは間違いありません。
動物の知能は、むしろなにかに特化するのは危険で、複雑な自然界においてなるべく柔軟に対応していくことが求められます。
広く浅く何でもできることが大事です。こちらの「動物っぽいAI」を **汎用AI** と呼んだりします。もちろん今のところ汎用AIの開発に成功した人はいませんが……(ごく一部の研究グループでは開発に着手しているみたいです)。
既存の計算機の改良+新アルゴリズム
次にこの予想に反して票数が少なかったほうですが、
- 脳はニューロンの集まりによってできている
- 1つ1つのニューロンの振る舞いは、計算機でも再現できるだろう
- であれば、既存のハードウェアでも知能は再現できるだろう
- ただし、1つ1つのニューロンから再現するのは効率が悪すぎるので、もっと粒度を大きくする必要はある
といった理由から、私はこの立場です。空をとぶとき、鳥の羽毛を1本1本、筋繊維の1本1本を忠実に再現してもあまり意味がありません。
それよりは、「どうすれば飛べるのかというエッセンス(≒航空力学)」をまず研究し、空を飛ぶための最小構成から始めるほうが効率が良いのではないかと思うのです。たとえば、まずはグライダーを作ってみて、うまく行ったらプロペラ機を作って、といった感じです。全脳シミュレーションはあまりにも大変なので、たぶんこちらのほうが先にうまくいくんじゃないかなと思います。
もちろん全脳シミュレーション自体は非常に役に立つと思いますが(たとえば、てんかんや自閉症の研究などに使えるでしょう)。
おわりに
もともとは、「今あるAIってあたかも人間の脳を模倣した…とか言ってるけど全然人間の知能とは違うじゃないか!」という怒りから生まれたアンケートだったんですけど、蓋を開けてみたら意外とみんな「まあ…人間の知能とはぜんぜん違うよね…」みたいな冷めた感じだったのでなんというかああよかったなあという気持ちになりました。
今のAI、つまり特化型AIはそれはそれでものすごく便利で、実際色んな所で使われているわけですが、「動物のような知能を持った機械も作りたい!」という汎用AI研究は超下火どころか風前の灯火です。
このあたりにもっとフォーカスがあたるといいなあと思った次第です。
おまけ
- 知能ってなんなのか
- なんで今のいわゆるAIでは知能が宿らないのか
- 特化型AIと汎用AIってなにがどう違うの
- なんで汎用AIはすごそうなのにあんまり研究されてないの
- 汎用AIを作るための理論って聞いたことないけどマジであるの?
っていうのを実は本にまとめました。今月技術評論社さんから発売されますが、Amazonではもう予約できるみたいです。
人工知能や機械学習や情報工学について全く知らない人でも、気軽に読めるものにしました。英語や数式は1つもないカジュアルな内容です。
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価格も「なるべく安くしてください」って伝えたらまさかの2000円を切るお求めやすいものになりました。
興味があったらぜひ読んでみてください。