Sideswipe

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大脳新皮質

これは 人工知能アドベントカレンダー の4日目の記事です。

大脳は、大脳半球(cerebral hemisphere) という左右2つの部位に分かれています。いわゆる右脳と左脳というものにあたります。
両者は完全に分離しているわけではなく、脳梁(corpus callosum, CC) によって接続されており、相互に情報のやり取りをしています。
それぞれの大脳半球は、大脳皮質(cerebral cortex)が表面を覆っており、その内部には大脳基底核(cerebral basal ganglia)が収まっています。

大脳皮質はさらに以下の3つにわけることができます。

  • 新皮質(cerebral neocortex) 大脳の表面にある6層構造を持つ薄いシート状の皮質で、あとで詳しく述べる
  • 古皮質(paleocortex) 梨状前皮質など。霊長類では退化してあまり見られない。
  • 原皮質(arichicotex) 海馬体などを構成する。

ここでは、霊長類、なによりヒトで特に発達している大脳新皮質を扱います。

概要

大脳皮質の役割は、ものを知覚したり、運動を制御したり、未来の予想、計算、推理、などまさに知性を司るといっていい器官です。
たとえば、大脳皮質の視覚を処理する部分が不可逆的に破壊されると*1、網膜や視神経はまったく問題がないのにもかかわらず、ものが見えなくなります*2

大脳の外観

回と溝

大脳はすでに述べたように、薄い(1mm〜3mm)シート状の組織で、約2500平方センチほどの面積があります。これは新聞紙1枚を広げたくらいの大きさなので、相当な面積があることがわかります。これがしわしわに折りたたまれて頭蓋骨の中に格納されています。この畳んだときに、表面に出てきている部分を、脳回あるいは回(gyrus)といい、逆に奥に入り込んでいった部分(外からでは直接見えない部分)を脳溝あるいは溝(sulcus) といいます。特に目立つ、あるいは重要な脳溝には名前がついています(特に中心溝とシルヴィウス溝は重要です)。

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大脳皮質は、脳溝と機能をもとにおおきく4つの領域にわけられています。これを大脳葉(lobe)といいます。

  • 前頭葉 (frontal lobe)
  • 頭頂葉 (parietal lobe)
  • 側頭葉 (temporal lobe)
  • 後頭葉 (occipital lobe)

前頭葉は物事の判断や計画に関わっており、頭頂葉は運動と皮膚感覚、側頭葉は見たり聞いたりしたものがなにかの認識、後頭葉は視覚について処理をしています。
それぞれの細かい機能や仕組みについては、また後日触れることにします。

前頭葉、側頭葉、後頭葉の末端部分は、特に極(pole)と呼ばれます。

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脳の機能局在

すでに葉の項目で述べたように、脳は場所によって処理するものが違うということがわかっています。
次の図は、回を基準にして、おおまかな役割で新皮質を色分けしたものです。

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弁蓋部・三角部・眼窩部はまとめて下前頭回といい、縁上回・角回はまとめて下頭頂小葉といいます。
たとえば弁蓋部と三角部は言語処理、特に言語を生み出すこと(口で話す、手話で話す、など)に対して重要な役割を果たしており、運動性言語中枢と呼ばれます*3

ここから、さらに機能的、解剖学的に細かく脳の領域を分類していった「ブロードマンの脳地図」があります。
これは、ドイツのコルビニアン・ブロードマン(Korbinian Brodmann, 1868〜1918) が細胞染色をして、似た構造の部分をひとまとまりとして、52の領野に区切ったものです。

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ブロードマンの脳地図。色が違う部分はある特定の処理を担当していると考えられている。(Public Domain)

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Korbinian Brodmann, 1868〜1918 (Public Domain)

今日では、fMRIなどの脳イメージングによってさらに細かい脳の働きがわかり、ブロードマンの脳地図はさらに細かい領野にわかれていることもわかっていますが、一般にはブロードマンの脳地図をもとにして部位を呼びます。
各領野には1〜52までの番号が振られており、また同時に名前もつけられています。たとえば、17野は一次視覚野という名前がついている、というように。

各領野は相互に連携して情報処理をしていることがわかっており、概ね近くにある領野は相互接続されていることが多いことがわかっています(まれに遠くにある領野同士が接続していることもあるが)。

以下の図は、脳の腹側皮質視覚路(Ventral stream)を表した図です。腹側皮質視覚路はものを見て、それがなにかを判断する(たとえば、目でリンゴを見てそれがリンゴだとわかる)ために重要な経路になっており、後頭部にあるV1(17野と一致)で処理された内容が、V2(18野と一致)に入力されます。V2でまた情報処理がされ、次はV4に入力され、次に…といった具合にどんどん上位の領野に情報が転送されていきます*4。詳しくは、「五感」および「視覚野のモデル」などで触れるためここでは簡単な説明に留めますが、V1は線の傾き程度しか処理できないのですが、V2になると線を組み合わせたコーナーの判断ができるようになり、V4になるとさらに複雑な模様や色がわかるようになり…といったように、下位の領野ではより単純な処理を、上位の領野では複雑的・抽象的な処理を行うといった多段階構成になっています。

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腹側皮質視覚路を示した図。LGNは視床の一部である外側膝状体(Lateral geniculate nucleus)である。V1は単純な線しか認識できないが、TE野では顔や手などの非常に複雑な形状の物が認識できていることがわかっている。このように、段階を踏んで次第に複雑な情報が扱えるようになっているのが視覚に限らず大脳皮質の基本的な仕組みだと考えられている。V4は本来脳の内側にあり、外からではほとんど見えないが、この図ではかなり誇張して描いてある。

局所構造

層構造とコラム

大脳新皮質は6層構造になっており、脳の表面から深部に向かって順に

  • Ⅰ 分子層(molecular layer)
  • Ⅱ 外顆粒層(external granular layer)
  • Ⅲ 外錐体細胞層(external pyramidal layer)
  • Ⅳ 内顆粒層(internal granular layer)
  • Ⅴ 内錐体細胞層(internal pyramidal layer)
  • Ⅵ 多型細胞層(polymorphic layer)

と名前がついています。

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大脳皮質の6層構造のスケッチ*5。左は細胞染色、右は繊維構造。

各層が具体的になにをしているのかについては謎が多いのですが、主にVI層に視床からの入力があり、V,VI層から視床への出力があるといった傾向があります*6。また、場所によってある層が厚く、ある層は薄いといった傾向も見られます。ブロードマンの脳地図も6層構造の不均一性をヒントにして分類したものです。

層構造は横方向へ伸びていますが、縦方向に関してもある一定の構造が見られます。これをミニ円柱(minicolumn)とよび、25〜40μmほどの大きさです*7。人間の大脳には200億個のニューロン、2億個のミニ円柱があると見積もられています*8*9。つまり、1つのミニ円柱の中にはだいたい100個くらいのニューロンが含まれていることになります。

さらに、このミニ円柱が100個ほど集まって、機能円柱(column)を構成しているといわれています*10。「いわれている」というのは、ミニ円柱と機能円柱の関係がまだ明確にわかってないためです。ただ、1つの機能円柱に含まれるミニ円柱は、似た刺激に対して反応するので、機能円柱が大脳皮質の処理における最小単位だといえます。

ここまでをまとめると、大脳皮質は機能円柱という縦長の柱のような構造から成っており、その機能円柱がびっしりと密集することによって1枚のシート状の組織になっているのが、大脳皮質です。

というわけで、機能円柱がどのような仕組みで、なにを処理しているのか、という点がわかれば大脳皮質のかなりの部分を再現できそうですが、やはりそれは難しく、かなりわかってきた部分もあるとはいえ、まだまだ謎が多いというのが実情です。

コラムの内部構造

次にコラムの内部がどうなっているのかについて見て行きましょう。

I層(分子層)については、ほとんど細胞がなく、樹状突起や軸索が走行しているのみです。
II層(顆粒細胞層)は比較的小型で丸い形をした顆粒細胞(granule cell)と呼ばれる細胞が多く、III層(外錐体細胞層)は三角形のような形をした錐体細胞(cone cell)が多くを占めています(この錐体細胞の授業時突起が伸びていって、I層に広がっている)。
II層とIII層の機能は似ていて、主にIV層から入力を受け取り、他の領野に出力を送っています(投射している、という)。

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今ちょうど出てきたIV層はというと、有棘星状細胞(spiny stellate cell)や星状錐体細胞(star pyramid cell)が多く、(大脳皮質のほかの領野からではなく)外部からの入力、主に視床からの入力を受け取っています。そしてII層とIII層へ出力を送り、また同時にわずかではありますがIV層から直接他の領野へも出力を送っています。いわば、ここが大脳新皮質の入力を担当している部分です。

次にV層,VI層ですが、ここはIV層とは逆に、視床に対して出力を送っているところ、つまり大脳新皮質の出力部分にあたる層です。概ねIV層からの入力を受けています。

重要な点として、III層からの出力は主に上位の領野(のIV層)になされるのに対し、V,VI層からの出力は視床とさらに下位の領野のI層に対してなされているという部分です。言葉ではわかりにくいので、次の図を見てください。

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ある領野のコラムから上位と下位の領野にどう接続されているかを説明した図。IV層に入力された情報は、II/III層で処理されて上位の領野に送られる。一方で、II/III層とV/VI層の出力は下位の領野のI層やV層にも送られるという、フィードバック回路になっている。また、別の見方をすると、大脳皮質は視床大脳基底核からの入力を受け取り、処理結果をまた戻すということもしている。ただしこの図は代表的なもののみ示してあり、実際にはかなり複雑な回路になっていることに注意。

コラムの機能

コラムがなにを処理しているのかはよくわかっていません。ただし、大脳皮質を観察すると、視覚を処理するところ、聴覚を処理するところ、運動を制御するところ、声を聞いたり、話したりするところはもちろん、未来を予想したり、数学の問題を解こうとしたり、チェスの盤面から戦局を判断するところといったあらゆる領野でこのコラム構造が見られる*11ことから、このコラムが大脳皮質における情報の基本単位であり、かなり万能なモジュールであるということがわかります。これがわずか100個程度のニューロンから成り立っていることは驚くべきことです。

まとめ

ヒトの知性の源といっても過言ではない、大脳皮質について説明しました。
大脳皮質は他の動物と比較したときにヒトで特別発達している部位であり、であるがゆえにヒトは高度な知性を持っていると考えられています。
大脳皮質はさまざまな機能をもつ多数の領野から構成されていますが、一方で生理学的にはかなりのっぺりとした、どこを見ても同じモジュール(コラム)が続いているという均一な構造をしています。
このことから、大脳皮質はなにか単一の仕組みによって動作していると考えられますが、いまだそのメカニズムについては不明な点が多く、謎の多い部位でもあります。とはいえ、すでに判明していることも多く、またDeep Learningとも関連が深いところもあるので、それは追々触れていくことにしましょう。

*1:外傷や、脳内出血、脳梗塞など

*2:視覚失認という。視覚失認にもさまざまな種類があるが、これは「高次脳機能障害と分離脳」の項で扱う

*3:一般にはブローカ野と呼ばれるが、ブローカ野の役割については、後日詳しく述べる

*4:V3は背側皮質視覚路に属しており、動きの判断のために働いているためここでは出てこない

*5:Henry Gray (1918) Anatomy of the Human Body

*6:これはかなり大雑把な説明であり、細かい点については後述する

*7:Jones EG. Microcolumns in the cerebral cortex. Proc Natl Acad Sci 2000;97(10):5019–21.

*8:Towards cortex sized artificial neural systems, Christopher Johansson and Anders Lansner, Neural Networks, Vol. 20 #1, pp48–61, Elsevier, January 2007

*9:「1000億個のニューロンという表記もあるが、これは大脳皮質以外のニューロンも含めた数である」

*10:A Peters, C Sethares, Myelinated axons and the pyramidal cell modules in monkey primary visual cortex. J. Comp. Neurol.: 1996, 365(2);232-55

*11:ただし、各層の厚みは異なり、たとえば一次視覚野ではIV層が厚く、一次運動野ではIV層がほとんどないかわりにV層が非常に厚い

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